NOTO-NO-NOTE事例紹介/コラム

特殊な装丁と写真プリントの再現にこだわり抜いた「企画展カタログ」 | アーティゾン美術館 様

  • 2022年12月19日
  • 高精細印刷

アーティゾン_のとのお仕事用

公益財団法人石橋財団が運営する「アーティゾン美術館」(東京都中央区京橋)にて、2022年7月10日まで開催されている「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画−セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」。

今回の展覧会は「人間がものを見て表現する」近代絵画に共通する造形思考を感じさせる二人の現代作家、柴田敏雄と鈴木理策が、活動の初期より関心を寄せ続けていたセザンヌの作品を起点に現代の写真作品と絵画の関係を問う展覧会です。

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「柴田敏雄と鈴木理策」カタログ(左)/オリジナルプリント限定版(右)

このたび能登印刷が、その展示会のカタログ2種の印刷・製本のお手伝いをさせていただきました。今回は、誇らしくもありがたい、その制作の一端をご紹介いたします。

作家様からのご紹介で再びご縁をいただけた幸せ

2022年1月、先行して動いていたポスターやチラシが校了した頃、

  • 一般的な「A4タテ型」の図録ではなくヨコ型の図録を作りたい。
  • できれば単に「A4ヨコ型」ではなく変形サイズにしたい。
  • 「通常版」とは別に数量限定で販売する「特装版」を作りたい。
  • 「通常版」も表紙加工等で何かしらの特別感を出したい。
  • 「特装版」は特に「特別感」を出す加工を施したい。
  • 作家両名のオリジナルプリントを付けるための工夫をしたい。

とのご要望を受けてプロジェクトがスタート。A4ヨコ型の変形サイズ、表面加工にハジキニス(ニスを使った特殊な手法)を用いることが決まり、いよいよ「特別装丁版」の仕様についての検討が始りました。

サンプルを作りながら試行錯誤を何度も繰り返す

2月、担当のディレクター、デザイナーと初の打ち合わせ。特別装丁については、機能美を求めるのか、ユニークな装丁にするのか、豪華な加工を施すのか・・・様々なアイディアを頂戴しながら、物理的な条件や、作業の効率などをお伝えし、3案に絞り込み、そこからサンプルの作成へ。

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限定版のサンプルとして作成。表紙を開くとオリジナルプリントが展開する

なんといっても、今回の限定版の最大のポイントは「オリジナルプリントが付く」という点で、封筒に入れ込むタイプ等もつくってはみたものの、最終的には「額縁」のような枠をつくり、その中にオリジナルプリントをはめ込むスタイルを採用。

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こちらも限定版。こだわりの上製本の「スイス装」

製本についても、上製本(ハードカバー製本)でありながら片袖折り、しかも、お洒落な画集などで使われる「スイス装」(表紙と本体を表3と本体の最終ページで接着させて本の背表紙が見えたり離れたりする状態をつくることができる装丁)を用いるなど、個性溢れる唯一無二の、オリジナリティーのある1冊に仕上がりました。

PDがこだわり抜いたシャドーの深みと階調の再現

3月、追いかけるように色校正がスタート。当然、本機・本紙での校正となりますが、作家のお二人に直々に色校正を確認いただけるとのことで、弊社からもプリンティングディレクター(PD)が同席し、現地にて直接お話を伺いながら確認を行いました。

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じっくりと時間をかけて1枚1枚の色味をチェック

担当したPDの山崎(下部の左写真の右)、画像処理の中川(右写真)は、これまでも多くの図録や作品集を手がけてきた高品位印刷のスペシャリスト。

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ディレクション力と画像処理力で美しい印刷を生みだしていく

今回使用した「b7 トラネクスト」という紙は、風合いがあり、手触りが良く、軽さもあって、近年、図録などで人気の高い紙ではあるものの、これまで写真集などでよく使われてきたコート系の用紙に比べると、濃度や艶という点で、写真プリントの再現がやや難しい紙。しかし、このような条件でこそ、これまでの経験、私たちの製版技術を活かすことができます。

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コート系用紙に比べてドライダウンが大きい紙「b7 トラネクスト」を使用

特に力を注いだのは「写真プリントの持つシャドー(暗部)の深みと階調の再現」。シャドーが浅くなれば、写真全体の迫力が損なわれ、遠近感や立体感といった奥行きも失われてしまいます。

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明暗差があることによって写真に遠近感や立体感が生まれる

光りを際立たせるためにもしっかりした影が不可欠。ということで、総インキ量の中でCMYK(特にK=ブラック)の割合を上手くコントロールし、黒、紺、緑、赤など各色の深みを再現、また、色を濃くすることで、シャドーに残っている階調が潰れてしまわないよう細心の注意を払いました。

カタログを収納するケースや保管箱も特別仕様で

ここまできたら「ケースや保管箱も徹底的に!」です。ケースについては、表紙の布クロスではなく、デザイナーさんより「パチカという用紙を使って熱処理加工で文字を表現したい」とのご要望が。

この「パチカ」という用紙、見た感じは単に表面が起毛した白い紙なのですが、加熱型押しすると透明になり、型押しした立体感と相まって、とても表情に富んだ雰囲気になる紙。

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カバーには起毛があり触り心地もいい用紙「パチカ」を使用

とはいえ、その熱加減が難しく、基準の温度から少しでも高くなると焦げてしまい、逆に少しでも低くなると透明になってくれません。

この熱加減がデリケートで難しく、この加熱型押しは、何度もテストを繰り返しOKとなり、4月上旬にようやくケースのサンプルが完成しました。

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傷や汚れから本を守る。隙間なくすっぽりとハマる保管箱

さらに、保管するための箱も特注仕様。こちらも隙間ができず、カタログがスムーズかつキレイに収まるよう、工夫したつくりとなっています。

作家のお二人にサインをいただいて遂に完成

今回の限定版は、数量限定でシリアルナンバーが入るのですが、オリジナルプリントにも、丁寧にサインをいただきました。

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柴田敏雄 氏(左)と鈴木理策  氏(右)

そして、4月28日。遂に迎えた今回の展示会の「特別内覧会」の日! 会場には多くの関係者の方が集まり、大いに賑わっていました。そして、2階にあるミュージアムショップに向かうと、カタログ2種が入り口付近に並んで展示されていました。

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アーティゾン美術館に併設されたミュージアムショップにて販売中

後日お伺いしたところ販売も好調に推移しているとか! オンラインショップでも購入できますので(2022年6月現在)、作家のお二方はもちろん、アーティゾン美術館 様、担当のディレクターさん、デザイナーさん、そして弊社の、想いと工夫と技術が詰まった一冊をぜひご覧いただければ幸いです。

実施・納品時期:2022年4月
※ 会社名・部署名などは取材および記事制作当時のものになります。

制作:株式会社アマナ
デザイン:SO(橋詰 宗)
営業:関 友生(能登印刷 CS東京本部)
プリンティングディレクター:山崎 剛(能登印刷 制作部)
画像処理(レタッチャー):中川貴利(能登印刷 制作部)

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